信託とは

 信託とは、あなたの財産を、あなたの定めた目的でしか利用できない財産とすることをいいます。

 例えば、あなたが自分の財産の全部または一部を
「自分が死んだあと、配偶者のために家を残しておきたい」
「障害のある子のために使いたい」
「孫の学費のために使いたい」
「ペットのために使いたい」
と考えたとしましょう。

 しかし、問題のある親族、悪徳業者などが、あなたが意思能力を喪失した後あるいはあなたの死後に、その財産を狙ってくるかもしれません。

  ここで、あなたが財産を信託してしまうと、信託した財産に対しては、
 ①問題のある親族が手を出すことはできなくなります
 ②前配偶者など第三者が手を出すこともできません
 ③仮にあなたが破産したとしても、あなたの債権者が手を出すこともできません
 ④そして、信託の1番のメリットは、あなたが意思能力を喪失した後であっても、また、あなたの死後であっても、①②③の効力を存続させることができます。

 つまり、あなたが築き上げてきた財産あるいは先祖から受け継いだ財産を、あなたが定めた目的以外のためには、一切使えなくすることができるのです。

信託の仕組み

 では、どのようにすれば、あなたの定めた目的のために財産を使うことができるのでしょうか?

  信託の基本的な枠組みは、
 ①財産を委託する人「委託者」
 ②財産を預かって運用する人「受託者」
 ③財産から利益を受ける人「受益者」
の三者構造が基本となります。
  また、信託の内容や状況に応じて、
 ④受託者の仕事を監督する「信託監督人」
 ⑤受益者の利益を代弁してくれる「受益者代理人」
などが置かれることもあります。


 まず、あなたが「委託者」となって、信頼できる「受託者」に預けます。
 受託者は、あなたの定めた目的に従ってあなたが定めた「受益者」のために財産を管理します。

 万が一受託者があなたの財産を悪用することがないように、委託者や受益者が受託者を監督する仕組みが信託法に定められています。監督が不十分な場合に備えて「信託監督人」を置くこともできます。

 また、受益者が未成年者や障害がある場合には、受託者への監督が不十分となる恐れもあることから、受益者代理人を置き、受益者に代わって受益者の権利を守ることもできます。

 そして、あなたは、信託財産の額、受託者への信頼度、受益者の能力、あなたの意思能力の変化などに応じて、これらの仕組みを信託法の範囲内で自由に定めることもできます。

 このように、あなたの財産が悪用されず、あなたの定めた目的に従ってあなたの財産が利用されるような仕組みが整えられているのです。

 以下、実際に使われる例を見てみましょう。これらは、あくまでも例に過ぎないので、ご自分の置かれている状況でも使えるかどうかは、我々に相談してみてください。

家族信託の事例

 賃貸用不動産を所有しているが、自分が高齢になり管理が負担となってきた。賃貸用不動産の管理を信頼できる長男に任せ、そこから得られる利益を自分に帰属させたい。また、自分の死後は、その利益を配偶者に帰属させたい。



 自分の財産を、障害のある子のために使いたいが、その子が亡くなった後は、前配偶者との間に生まれた子のために使いたい。しかし、金遣いの荒い前配偶者に自分の財産を管理させたくない。








 アルツハイマーに罹ってしまった配偶者のために自宅を残したいが、自分の子供たちが自分の意思を尊重してくれるかどうか不安である。また、自分が死んだあとは、自宅を処分し、その売却代金をもって配偶者の老人ホームの入居料に充てたい。配偶者が亡くなった後は、自分の世話をしてくれた姪に残った財産を渡したい。

 自分の財産を孫の学費のために使いたいが、孫の親(自分にとっての子又はその配偶者)に預けるのは心配である。さらに、孫が勉強もしないときにまで財産は使いたくない。そのときは、自分の財産を別の親族に与えるか、寄付したい。




 自分の財産を、自分の死後も、故郷の子供たちの奨学金にしたい。特に、学業やスポーツの成績が優秀な子供たちのために限定して使ってほしい。しかし、寄付をするだけでは、自分の財産が本当に自分の望む子供たちに渡されるかどうかが不安である。

(※ただし、このような信託は、受託者の要件が厳しく、実現が困難なこともあります。)

 自分の会社を長男に事業承継させたいが、長男の経営能力にはまだ不安があるので、自分もある程度経営に関与したい。他方で、浪費家の次男が経営に口を出したがっており、自分の死後、兄弟間で経営権の争いが生じるのではないかが不安である。



 自分が死んだ後、自分の葬儀及び7回忌までは確実に執り行ってほしい。ただ、相続や遺贈しただけでは、自分の相続人たちが、自分の望む弔いを執り行ってくれるかどうかが不安である。

家族信託のメリット

  上記のような事例で家族信託が使用されるのですが、他の制度では駄目なのかも含めて、信託のメリットを紹介します。

①遺言では、あなたの死後直後までしかコントロールできない

  遺言で、あなたの財産の管理方法を定めることができます。しかし、遺言で決めることができるのは、あくまでもあなたの死後のことだけであり、それ以降の相続についてはコントロールすることはできません。
  例えば、「自分の財産を長男に、長男が死んだあとは次男の子に相続させる」というような遺言を後継ぎ遺贈といいますが、この遺言が効力を有するのは「自分の財産を長男に」までです。それ以降の相続については、効力を有しません。
  しかし、信託を利用した場合は、上記のようなあなたの意思をすべて実現することができます。なぜなら、信託された財産は、あなたが定めた目的である後継ぎ遺贈以外の目的では使えなくなっているからです。

②遺言を書いても本当に実現できるかが疑わしい

  ①で、遺言でコントロールできるのは、あなたの死後の相続だけと書きましたが、現実問題としては、遺言執行者を置かない限り、あなたの相続人、例えば子供たちが遺言を無視してしまえばそれまでです。
  また、遺言執行者を置いたとしても、遺言執行者が関与できるのはあなたの相続財産の配分までであり、その後のことまではチェックしてくれません。
  従って、遺言に書いたからと言って、それが実現される保証は一切なく、あなたの最終意思が踏みにじられる恐れがあるのです。
  しかし、信託を使った場合には、このようなことはまず起こりえないといっていいでしょう。なぜなら、信託された財産は、あなたの定めた目的以外では使えず、あなたが信頼した親族や友人が管理しているので、あなたの子供たちは一切手を出せないからです。

③信託の枠組みは、状況に応じて変えていくことができる

  例えば、あなたが、自分の財産を「当初は、障害のある子の生活資金として使いたい」「子の死後は、世話になった恩師の子の教育費の援助のために使いたい」「恩師の子が大学を卒業した後は、故郷の子供たちのために寄付したい」というように、20年~30年にわたって自分の意思を実現したいと考えた場合、信託ではこれが可能になります。

④成年後見では、あなた自身のためにしかあなたの財産を使えない

  あなたの財産を安全に管理する方法としては、他に成年後見制度の利用も考えられます。しかし、成年後見においては、あなたの財産は「あなたのために」しか使えません。例えば、あなたが意思能力を喪失し成年被後見人となった後は、あなたが自分の財産を配偶者又は子のために使ってほしいと考えていたとしても、あなたの保護者である後見人は、原則としてあなたのためにしかあなたの財産を使うことはできません。
  なぜなら、成年後見制度は、あなたの意思を全面的に尊重する制度ではなく、あなた自身の生活を守るための制度だからです。
  従って、あなたが、あなた自身の生活以外のために自分の財産を使ってほしいと考えたときは、家族信託を利用するべきでしょう。

⑤家族信託では、受託者への報酬を低額又は無料にできる

  一般的な信託では、信託銀行や信託会社では高額な報酬を取られることも多く、信託財産があまり多くないときは、信託のスキーム自体が組めないことがあります。また、信託財産の内容・性質によっては、そもそも受託を断られることもあります。
  しかし、家族信託では、家族や友人を受託者とすることから、報酬を低額又は無料にすることができ、また、信託財産の内容・性質を問いません。
  非常に自由度の高い信託といえるでしょう。

信託のデメリット

信託は、非常に優れた柔軟性のある制度ですが、以下のようなデメリットもあります。

①相続税対策にはならない

 信託の制度と相続税対策を併用させることは、事例によっては非常に困難な場合があります。相続税対策をメインにする家族信託は考えないほうが良いでしょう。

②自分の意思能力が十分な間でしか信託はできない

 信託は、契約や遺言、宣言で行います。従って、自分の意思能力が十分な間でしかすることはできません。早めの決断が必要になります。

③遺留分対策は欠かせない

 遺留分とは、相続人が有する最低限度の取り分のことをいいます。これは、信託によっても奪うことができません。
 例えば、ギャンブルに没頭する長男が信託財産に手を出せないようにするのが信託ですが、そんな長男にも遺留分がありますので、遺留分に配慮した信託を設定しておかないと、自分の死後、信託のスキームが破壊される恐れがあるので、その対策が別途必要になります。
※遺留分に関する説明はこちらへ

④信頼できる親族や友人が必須である

 「家族信託」と呼ばれるように、受託者となるべき信頼できる親族や友人が必要になります。そのような親族や友人がいなくても、受託者を信託会社とすることで信託自体は可能ですが、受託者を信託会社とすることで多額の報酬が必要になったり、信託内容によっては信託会社が受託してくれないこともあります。

このように、信託は、完璧な制度ではありませんので、信託できるかどうかを含めて、我々に相談していただければと思います。

⑤信託した財産は、自分も自由に使えなくなる

  信託した財産は、「あなたの定めた目的」以外のためには使えなくなります。ということは、あなた自身も自分の定めた目的に縛られます。
  例えば、「ちょっと手元のお金が少なくなったから信託財産から取り戻したい」と考えたり、「自動車を買いたくなったから信託財産から買いたい」と考えたりしても、それはあなたが定めた目的に反する財産の使い方なので、許されないことになります。
  従って、財産のほとんどを信託するのはお勧めしませんし、また、信託財産から取り戻すためのスキームも準備しておく必要があるでしょう。

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